文献選集《愛国心》と教育
市川昭午・貝塚茂樹 監修
全13巻・A5判・上製・総約4,000頁
本体:120,000円+税
978-4-284-30150-3 NDC 371.6
2007年 4月刊

〈刊行にあたって〉

市川昭午(国立大学財務・経営センター名誉教授/国立教育政策研究所名誉所員)

 21世紀に入ってから愛国心に関する議論が急に盛んになってきました。これは国際的には冷戦の崩壊に伴うナショナリズムの高揚と民族紛争の続発、東北アジアにおける国際緊張の激化などが相次いだことと、国内的には社会格差が増大し、社会から疎外されよりどころを失った若者たちが激増したことなどによるものと思われます。
こうして愛国心の問題がクローズアップされてきたのに加えて、昨年教育基本法が改正されたことから、愛国心教育の問題は学校教育の現場でも避けては通れないようになりました。無論愛国心と教育をめぐる論議は今に始まったことではなく、戦後も新教育が始まって以来、幾度も繰り返されてきました。同時に学校現場にはこの問題をタブー視し、なるべく触れないで済ませたいという雰囲気が強かったことも否定できません。それは無理もありません。愛国心の問題は包摂と排除の両面を含む点で大変デリケートなものですし、人々の心の琴線に触れるため、とかく感情的な議論になり易く、論理的に対応することが困難だからです。
 ましてこれを学校においてどう教えるかは非常に難しい仕事です。といいますのも昔から道徳は果たして教えられるかが繰り返し問われてきたことからも分かりますように、教育の中でも最も難しいのが道徳教育だからです。したがって愛国心を教えることは難問中の難問ということになります。しかしこれだけ重要でしかも困難な課題であればあるだけ、何時までも放置しておくわけには行きません。今こそ教育界の総力を挙げてこの難問に取り組むべきときだと考えられますが、それにはこの問題が戦後どのように論じられてきたかを知ることが必要です。そこで私たちはこの問題に関する主要文献を蒐集し、選集として刊行することにしました。
 この選集が対象としているのは戦後から1980年代にかけての文献です。むろんその後の時代にも優れた文献は少なくありませんが、その多くは現在でも入手が可能であることを考慮に入れて、今回は含めないことにしました。
 教育・政治・思想・哲学などに携わる多くの研究者の方々、さらに現場の教職員、学生の皆さんにとって、本選集がこの重要な課題と向き合う為の一つの機会になっていただければと、望んでおります。



〈各巻構成〉

第1巻

新しい愛国心
高島善哉著/弘文堂刊/1950年
體制と民族と階級/市民社会の危機/社会科学から見た現代の平和/新しい愛国心の問題/戦後における民族意識と階級意識

愛国心とはなにか -その哲学・政治学・歴史学・文学的な新研究-
緑の会編/文理書院刊/1952年
愛国心の哲学(柳田謙十郎)/愛国と国際主義(横田喜三郎)/愛国心の理想と民主政治(戸澤鉄彦)/民主主義と愛国心(船山信一)/愛国心の歴史的意義(京口元吉)/国を愛するの道(田中惣五郎)/愛国心について(青野季吉)/新しい愛国心(寺島文夫)

第2巻 今日の愛国心 -ヒューマニズムの立場から-
正木ひろし編/三啓社刊/1952年
二十世紀後半の愛国心(末川博)/愛国心と民族解放(高坂正顕)/一愛国者の手記(正木ひろし)/愛国心の偶感(渋澤秀雄)/愛国心と日常心(七理重恵)/愛国心の在り方(前田多門)/愛国心の変遷(瀧川政次郎)/国家の中心(天野貞祐)/ドイツ人の愛国心(石垣綾子)/拡大された愛国心(増野正衛)
第3巻

新しい愛国心とその教育
平野武夫編/関西道徳教育研究会刊/1956年
愛国心の現代的状況(愛国心の現状/高校生における愛国心の実態/新しい愛国心の胎動/愛国心衰退の原因)/愛国心に関する諸説(戦前の愛国心論/戦後の愛国心論)/愛国心の本質とその構造/新しい愛国心の教育(愛国心教育とは/愛国心教育の歴史/愛国心教育の必要性/愛国心教育の可能性と限界性/愛国心教育の目的/愛国心教育の内容)/教科書に現れた愛国心/愛国心教育の方法

第4巻

愛国心と教育
新井恒易著/三一書房刊/1958年
何が愛国心を求めるのか/愛国主義の人間づくりの展開/愛国主義の人間づくりの系譜/愛国心と国家

戦後日本教育論争史 -戦後教育思想の展望-(抄録)
船山謙次著/東洋館出版社/1958年
愛国心教育論の登場(高橋磌一の愛国教育論・歴史学者の愛国教育論)/愛国心工作諸論(知識人の愛国心論・梅根悟の愛国教育論・宗像誠也の清瀬文相批判)/愛国心教育論の現段階(大熊信行の忠誠論・上原専祿の愛国教育論)/「紀元節」論争(高橋磌一の紀元節論・紀元節復活をめぐる動向)

第5巻

新しい愛国心
毎日新聞社編・刊/1961年
投書論争/国を愛すればこそ/国を思う二つの心/新制っ子は考える/高校生の討論会/大学生の国家意識/入社試験の答案/木口小平の死以後/生活感情にひそむもの/“なんの”ために/自衛隊/ところ変われば/海外の日本人/生まれたての愛国心/沖縄のあこがれ/外国人の目から/愛国心の歴史/私はこう思う

国家をどう教えるか
日本教師会編・刊/1964年
愛国心と天皇についての考え方(天野貞祐)/国家と国家主義(市村真一)/開かれたる愛国心(高田保馬)/憲法学の上から見た愛国心(大石義雄)/国家と教育(相良惟一)

第6巻

道徳教育 愛国心
波多野述麿ほか編/東洋館出版社刊/1966年
愛国心について/愛国心教育の問題/道徳指導における愛国心指導/実践事例と考察/愛国心について[座談会]

愛国心(小学校道徳価値の研究シリーズ)
青木孝頼編/明治図書出版刊/1967年
「愛国心」について/「愛国心」に関する主題構成/指導案および指導記録/指導案および指導記録の考察

第7巻

日本ナショナリズム論 -愛国心にたいする羞恥を-
津田道夫著/盛田書店刊/1968年
ナショナリズムとは何か/敗戦後のナショナリズム不在/古典的ナショナリズムの秘密/日本の国体ナショナリズム/大衆ナショナリズムの実態/支配者ナショナリズムの展開/「国益論」登場の歴史的背景/「明治百年」の思想と運動/ナショナリズムを止揚するもの/戦後教育における愛国心の系譜 ほか

愛国心(道徳教育シリーズNo.2)
中央教育課程研究委員会・生活指導部会編/日本教職員組合刊/1965年
修身科と愛国心/道徳指導資料における「愛国心」/愛国心をどのようにして育てるか/愛国心とは何か

第8巻 愛国心について
読売新聞社編・刊/1970年
ナショナリズムの新たな展開(大平正芳)/愛国心について(石橋正嗣)/体験的愛国心(佐々木良作)/二十一世紀インターナショナリズム(渡部一郎)/戦後の愛国心論争(大熊信行)/ナショナリズムについて(辻 武寿)/愛国心は教育につながる(藤井丙午)/国際主義こそ愛国心の根源(太田 薫)/愛国心はカメレオンか(高橋正雄)/経済ナショナリズムの思想(加藤 寛)/日本人と愛国心(高坂正顕)/愛国心ということ(いいだ・もも)/未開の愛国心を排す(松原新一)/愛国心教育(斎藤喜博)/愛国心と国家的忠誠について(大井 魁)
第9巻 愛国心(現代のエスプリ)
佐藤幸治編/至文堂刊/1970年
概説・宇宙時代の愛国心(佐藤幸治)/祖国愛について-一七八九年-(リチャード・プライス/永井義雄訳)/祖国への愛-ロゴスよりもパトスに立って-(倉田百三)/愛国と国際主義(横田喜三郎)/民主主義と愛国心(船山信一)/国を愛するの道(田中惣五郎)/共産主義と愛国心(淡 徳三郎)/日本の愛国心論争(大熊信行)/愛国心の実態(佐藤幸治)/愛国主義について(林健太郎)/祖国愛の哲理(佐藤通次)/愛国心随想(肥後和男)/失われた日本の愛国心(田中 卓)/世界各国の教科書にあらわれた愛国心の研究(唐沢富太郎)/正しい意味の愛国心(高坂正顕)/高次の愛国心-米外交の危機に直面して-(J・W・フルブライト/鶴見良行訳)/中学生の国家論(広島大学付属三原中学校)/地球人の自覚(池田大作)/欧米の人工的国家と国旗・国家の重要さ(鯖田豊之)/“建国記念日”始末記(桶谷繁雄)/留学生と愛国心(斎藤稔正)
第10巻

世界各国の教科書にあらわれた愛国心
原 富男編/有信堂刊/1972年
アメリカにおける愛国心/ソビエトにおける愛国心/中共における愛国心/ヨーロッパ諸国における愛国心(フランス・イギリス・西ドイツ・イタリア・デンマーク・スペイン・東ドイツ・ユーゴスラビア)

第11巻

道徳・宗教的情操・愛国心(抄録)
霞信三郎著/高陵社書店刊/1970年
愛国心とは何か/敗戦と愛国心/愛国心とは何か/愛国者と愛国心/人間形成と国民育成/日本人と愛国心/日本人と卑屈 ほか

戦後教育論 -愛国心教育の是非を問う-(抄録)
大井 魁著/論争社刊/1979年
ナショナリズムと愛国心教育/愛国心教育の是非を問う/日本国ナショナリズムの形成/戦後日本と愛国の倫理/愛国心教育と国家目標

第12巻

愛国心と教育
日本教育会編・刊/1987年
愛国心教育の基本条件/愛国心と教育(愛国心とその状況/愛国心の基底を養う家庭と郷土/国家の防衛と愛国心/学校における愛国心教育)/資料編

第13巻

日本の教育とナショナリズム
田村栄一郎著/明石書店刊/1988年
序にかえて-対象視角の問題-/国家主義時代の教育から民主主義制度の教育へ-戦前教育の後遺症とナショナリズム-/戦後教育におけるナショナリズムの台頭-全体が先か部分が先か-/福祉国家と教育-国家が先か国民が先か-/戦後世代の国家意識-「公」と「私」- ほか

ページトップへ 戻る