現代児童文学論集

(社)日本児童文学者協会 編集
(編集委員 砂田弘・石井直人・佐藤宗子・藤田のぼる・宮川健郎)
全5巻・A5判・上製・各巻平均350頁
揃本体:45,000円+税 978-4-284-70027-6
各巻本体:9,000円+税
NDC 909
2007年6月刊
日本図書館協会選定図書



「現代児童文学論集」(全五巻)の刊行にあたって(抄)

 日本児童文学者協会では、一九八〇年に『資料/戦後児童文学論集』(全三巻)を編集・刊行したが、そのねらいは戦後の日本児童文学を検証する上で欠かせない評論や資料を網羅的に収録し、批評の基盤を整理することとともに、批評活動を正当に評価することにあった。その目的は半ば達成されたところで留まっているが、この評論集が児童文学の活性化に少なからず寄与したことは疑いない。
 それから四半世紀、日本の児童文学は転換期のただ中にあり、児童文学批評もまた、歴史的遺産の批判的継承の上に立ちつつ、児童文学の明日への展望を探るべく格闘を続けている。このような状況を見据えるとき、日本児童文学の戦後六十年の歩みを批評活動を中心に再検討する必要を痛感せずにはいられない。このたび、私たちが既刊の三巻を含めて『現代児童文学論集』(全五巻)を編集・刊行するゆえんである。(略)
 本文学論集が児童文学について考える人びとにとって十分に利用され、そのことが批評の分野、しいては児童文学全体の発展につながることを心から願っている。

日本児童文学者協会
「現代児童文学論集」編集委員会
(砂田弘・石井直人・佐藤宗子・藤田のぼる・宮川健郎)
*本論集は、日本児童文学者協会創立60周年記念出版として企画されました。


〈特色〉

●日本の「児童文学」批評、半世紀の歩みを概観
第二次世界大戦直後の1946(昭和21)年から、1989(昭和64・平成元)年まで、43年間の「児童文学」批評・研究を精選。半世紀にわたる児童文学の流れを把握できます。

●100名を越す評論家・作家・研究者の論考を収録
小川未明、石井桃子から清水真砂子、川島誠まで、幅広い年代と多様なジャンルの作家・研究者100名余の評論約250作を収録。時代のポイントとなる重要評論を網羅精選し、年代順に配列しています。

●懇切な解説・解題と資料としても役立つ年表
各巻には、収録の評論と作家に関する懇切な解説・解題を付してあり、論点や時代背景を理解するのに役立ちます。また、重要作品が一望できる年表も各巻の時代ごとにまとめてあり、第5巻巻末には全巻共通の作品索引・執筆者索引も付してあります。

◆第1〜3巻は『資料/戦後児童文学論集』全3巻(1979・1980年、偕成社)を底本として復刻し、今回の全5巻本刊行にあたり改題した。また、明らかな誤字・脱字などは訂正した。


〈各巻内容〉(抜粋)

1946-1954
(昭和21〜29年)

第1巻 児童文学の戦後 

子供らのために……中野重治
子供の部屋……大佛次郎
子供たちへの責任……小川未明
児童文学の危機……高山毅
姿を消す生活童話……波多野完治
児童文学読者論……滑川道夫
子供のためのブックリスト、ふたつ……石井桃子
「少年文学」の旗の下に!……早大童話会
論争よ起れ(上)(下)……坪田譲治
『ビルマの竪琴』について……竹内好 
※解説……向川幹雄
※解題……向川幹雄
※年表……鳥越信・向川幹雄・宮川健郎 編

1955-1964
(昭和30〜39年)

第2巻 現代児童文学の出発 

「児童文学とは何か」の二、三について……国分一太郎
児童文学の本質……関英雄
この狭さをうち破れ!……安藤美紀夫
慢性的不況の創作児童文学……管忠道
民話とその"再話"ついて……西郷竹彦
児童文学の概念をかえよ……鳥越信
幼年文学における現実と空想の間……いぬいとみこ
さよなら未明……古田足日
日本児童文学におけるナショナリズムの系譜……上笙一郎
児童文学と社会性テーマ……西本鶏介
※解説……大岡秀明・長谷川潮
※解題……大岡秀明・長谷川潮
※年表……大岡秀明・長谷川潮・宮川健郎 編

1965-1969
(昭和40〜44年)

第3巻 深化と見直しのなかで

日本児童文学の戦後二十年……鳥越信
失われた時間を求めて……新冬二
ファンタジーの死滅……小沢正
"白い花"の系譜……秦 敬
戦争児童文学の問題……横谷輝
児童文学大衆化論序説……加太こうじ
贋金づくり日記抄……上野瞭
子どもの想像力を分析する……佐藤忠男
現代のファンタジィを123……古田足日
現代児童文学の争点1〜29……古田足日・山室静ほか
            〔*(7)(9)は除く〕
※解説……藤田のぼる
※解題……細谷建治
※年表……藤田のぼる・細谷建治・宮川健郎 編

1970-1979
(昭和45〜54年)

第4巻 多様化の時代に 
                 
児童文学にあらわれた性……奥田継夫 
児童文学にあらわれた国家……三木卓  
戦時下の児童文学、あるいはそれを「問い直す」ための覚書……上野瞭 
創作民話論の瀬ぶみ……益田勝実 
戦後児童文学への一考察……神宮輝夫
『だれも知らない小さな国』について……安藤美紀夫 
待たれるこども読者論の研究……松田司郎 
変革の文学から自衛の文学へ……砂田弘
ヒューマニズムへの道……後藤竜二
《子ども》論 一〜五……天沢退二郎 
文体よ、油揚やるから飛んで来い……井上ひさし 
タブーは破られたか……本田和子
もう一つの青春……今江祥智 
※解説……藤田のぼる・宮川健郎
※解題……藤田のぼる・宮川健郎
※年表……藤本恵 編

1980-1989
(昭和55〜64年・平成元年)

第5巻 転換する子どもと文学 

喪われた"共通理念"を求めて……藤田のぼる 
なぜ? 障害者……長谷川潮  
圧殺される子どものまえで児童文学は可能か…… 斎藤次郎 
失語の時代に……宮川健郎 
児童文学における〈成長物語〉と
 〈遍歴物語〉の二つのタイプについて……石井直人 
子どもの詩の現在……菊永謙 
豊饒な子どもの時間の中で……野上暁
なぜ子どもの本か……河合隼雄 
子どもたちの変容……前田愛 
感動の向こう側へ……村中李衣
初潮という切札 日本児童文学の場合……横川寿美子 
異質のイメージ。あるいは誤読への誘い……細谷建治 
現代文学の中の子ども像……佐藤宗子 
※解説……佐藤宗子・石井直人
※解題……佐藤宗子・石井直人
※年表……藤本恵 編



全5巻 執筆者一覧

新冬二/天沢退二郎/荒木せいお/安藤美紀夫/石井直人/石井桃子/石上正夫/石森延男/乾 孝/いぬいとみこ/井上ひさし/猪熊葉子/猪野省三/今井譽次郎/今江祥智/今本明/上野瞭/おうちやすゆき/大石真/大岡秀明/大藤幹夫/岡本良雄/小川未明/奥田継夫/大佛次郎/小沢正/小田切秀雄/乙骨淑子/小野和子/加太こうじ/上笙一郎/河合隼雄/川島誠/川本三郎/菅忠道/菊永謙/木島始/北川幸比古/来栖良夫/桑原三郎/香山美子/国分一太郎/後藤竜二/小林純一/西郷竹彦/斎藤次郎/寒川道夫/佐々木守/佐藤忠男/佐藤宗子/皿海達哉/渋谷清視/清水真砂子/神宮輝夫/進藤純孝/新村徹/砂田弘/関英雄/早大童話会/高山毅/竹内好/塚原健二郎/塚原亮一/常光徹/坪田譲治/鶴見正夫/寺村輝夫/鳥越信/中野重治/中村雄二郎/那須田稔/滑川道夫/西本鶏介/野上暁/長谷川 潮/秦 敬/波多野完治/林 芙美子/原 昌/平塚武二/福島正実/藤田圭雄/藤田のぼる/船木枳郎/古田足日/古谷綱武/細谷建治/本田和子/前田愛/槇本楠郎/益田勝実/松田司郎/三木卓/宮川健郎/宮原誠一/村中李衣/山室静/山本和夫/ヤマモト・ユウゾウ/横川寿美子/横谷輝/吉田精一/吉田定一/与田準一/脇明子/渡辺茂男


〈推薦します〉

『現代児童文学論集』を推す
子どもにかかわるすべての人の必読文献


千葉俊二(早稲田大学教育学部教授)

 偕成社版の『資料・戦後児童文学論集』全三巻は、これまで私もさんざんお世話になってきた。第二次世界大戦後の児童文学の展開を考えるのに、見落とすことのできない評論や資料を網羅的に収録しているばかりか、実によく目配りのきいた編集によって個性的な評論をも拾い、終戦直後から、六十年代末にいたるまでの児童文学の動向を的確に把握しうるように構成されている。今度、新たに七十年代から八十年代に発表された重要な評論を二巻分増補し、『現代児童文学論集』全五巻として刊行されるという。
 今日、子どもが見えない時代だといわれているが、子どもは時代を映す鏡である。子どもが見えないということは、急激な価値観の変動によって、私たち自身、時代が見えなくなったということでもある。もう一度、原点に立ちかえって子どもについて考えるためにも、児童文学に関心をもつ者ばかりか、子どもにかかわるすべての者の必読文献である。
 

『現代児童文学論集』刊行に寄せて
この時代に、千金に値いする企て

本田和子(お茶の水女子大学名誉教授)
 
 「現代児童文学論集」が刊行されるという。この企てに接して、先ず驚かされるのは、試みの無謀さと大胆さではないか。何しろ、「実益と結びつく研究」「役に立つ学問」が強調される余りに、大学の文学関連学部の衰退は目を覆うばかりであり、研究費の削減もあって研究者たちは息も絶え絶えの「こんな時代」。「子どもの読書力の向上」に役立つと断言することもためらわれるこの種の研究や評論に、何らかの現実的価値が見いだせようとは思えないのだ。
 しかし、人文系学問が不毛を極めるこんな時代だからこそ、この企画は千金に値いする。なぜなら、もし、「いまという時」を失うなら、ここ半世紀に亙る斯分野の歩みは、痕跡も止めず雲散霧消してしまうかも知れないのだから。その意味で、この企ては貴重であろう。そして同時に、子どもの文学が人生のかけがえのない導師であること、また、それは、時代の証言者でもあり得ることを、歴史との照合を通して力強く物語ってくれるであろうと期待している。


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