監修・編集:市川昭午
編集:貝塚茂樹・藤田祐介・朴澤泰男
A5判・上製・各平均700頁
●各本体5,800円+税 2008年10月〜2009年2月刊
刊行にあたって市川昭午

推薦します佐伯啓思(京都大学教授)
高橋哲哉(東京大学教授)
小熊英二(慶応義塾大学教授)
全文内容はこちらで読めます
<特色>

  • 1945年から2006年までに発表・公開された「愛国心」に関する「論文」・「資料」を精選した初の本格的資料集!
  • 各時代における愛国心をめぐる問題を考察しやすいよう、各巻とも〈論文編〉〈資料編〉の二部構成!
  • 〈論文編〉は教育界だけでなく各界の著名な言論人による100点近くの論考を収録。戦後日本において愛国心がそれぞれの立場からどのように捉えられてきたかを概観!
  • 〈資料編〉は 各種の「審議会答申」や「学習指導要領」、各界からの「声明」、「国会議事録」や社説を中心とした「新聞記事」など約160点を収録。主要なものについては簡潔な解題を付す!
  • 各巻の冒頭には、編者による愛国心の問題を考える上での役立つ書き下ろし解説を付す!
第1巻 復興と模索の時代 1945-1960
[監修・編集]市川昭午 [編集]貝塚茂樹・藤田祐介

敗戦から占領、朝鮮戦争や講和条約の締結を経て、安保騒動が終息するまでの期間。戦前とは異なる「新しい愛国心」が唱えられると同時に、その内実がいかにあるべきかをめぐって左右両陣営の間で論争が繰り広げられた。パラサイトナショナリズムと反米ナショナリズムが激突した時期である。
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2008年10月刊 ISBN978-4-284-50106-4

第2巻 繁栄と忘却の時代 1961-1985
[監修・編集]市川昭午 [編集]貝塚茂樹

占領の終結に伴って占領軍の圧力が薄れたことや、高度経済成長によって企業意識・マイホーム主義が蔓延したことにより、愛国心論争は比較的沈静化の様相を呈する。東西冷戦の恩恵を受けた経済の繁栄により、国民は経済ナショナリズムに満足し、文化的ナショナリズムが高揚した時期である。
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2009年1月刊 ISBN978-4-284-50107-1

第3巻 停滞と閉塞の時代 1986-2006
[監修・編集]市川昭午  [編集]貝塚茂樹・朴澤泰男

戦後政治の総決算を呼号した中曽根内閣による臨時教育審議の答申を出してから戦後レジームからの脱却を唱える安倍内閣による教育再生会議が報告を出すまでの期間。新自由主義的な経済政策を補完する形で新国家主義的なイデオロギーが登場、復古主義的要素が薄れ、国際社会への貢献が全面に打ち出され始めた時期である。
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2009年2月刊 ISBN978-4-284-50108-8

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<刊行にあたって>
市川昭午(国立大学財務・経営センター名誉教授 国立教育政策研究所名誉所員


今年で「戦後」も63年となりましたが、この間「愛国心」の問題は我が国において極めて重要であると同時に大変微妙な課題として存在し続けてきました。戦後は愛国心を論ずることがタブーだったいう説も一部にありますが、違うのではないでしょうか。教育界で愛国心教育が敬遠される傾向があったことは確かですが、これも愛国心が多義的でしかも人々の心の琴線に触れる問題であるというだけでなく、包摂と排他という両面の機能を有し、賞賛と非難の対象とされるなど、余りにも難題だからです。
むろん時期によって高低はありますが、愛国心の問題は一貫して論議の的となってきました。それは戦後の日本国民にとって愛国心が切実であると同時に、容易に結論の見出せない難しい問題であったからです。切実な問題だったのは戦後の日本が敗戦と占領、東西体制間の冷戦や東アジアの緊張激化といった国際環境におかれてきたためです。また難しい問題だったのは戦後の世界における国家主権の後退、国民経済の相互依存の深化、アメリカへの軍事的従属などという事態が続いてきたためです。
産業や経済をはじめ政治や文化までが急速にグローバル化していく中で我が国の将来像をどう描いていくか。愛国主義を鼓吹してやまない国々に隣接国としてどう対応したらよいのか。国家主権が絶対ではなくなっていく反面でむしろ国益主義が強まっている今日、必要悪としての国益追求にどう対処すべきかなど難問が山積しています。
さらに最近は『新しい歴史教科書をつくる会』の登場、国旗・国家法の制定、文部科学省による『心のノート』の作成・配布、愛国心を評価する通知表の実施、愛国心教育を盛り込んだ新・教育基本法の成立、言論界における右翼の台頭、若者の間におけるプチナショナリズムの流行など、社会全体の右傾化傾向が目立ってきています。
こうした一連の流れを受けて今日、論壇ではこれまで以上に「愛国心」を争点とする議論が繰り広げられ、教育界でも愛国心教育をどう進めるかが不可避の課題となっています。この度我々が『資料で読む 戦後日本と愛国心』の刊行に踏み切ったのはこうした現状を踏まえてのことです。
本資料は戦後「愛国心」をめぐる論議がどのような変遷を経て今日に至ったのかを概観するための基礎資料として企画されました。そのため敗戦直後から現在に至る間、「愛国心」について論じた主要な論考と「愛国心」関連の基礎的な資料を収集・整理すると共に、社会変化に伴うこの問題の変遷を通史的に捉えた解説と関係資料についての簡潔な解題を付けました。
本資料は全3巻からなっていますが、戦後の約60年間を時期的にほぼ三等分し、各巻にそれぞれの時期における主要な論文と資料を収録しています。第1巻は1945年から1960年までの約15年間、第2巻は1961年から1985年までの約24年間、第3巻は1986年から2006年までの約20年間を対象としています。
収録した「論文」は教育界だけでなく各界の著名な言論人による論考を広く対象としており、読者は戦後の我が国において愛国心がそれぞれの立場からどのように捉えられてきたかを概観することができます。また「資料」は「愛国心」の問題に関連する各種の審議会答申や学習指導要領、各界からの声明、国会議事録や社説を中心とした新聞記事などを幅広く収集し、主要なものについては簡潔な解題を付しており、読者が愛国心の問題を考える上での基礎資料として役立つ内容となっています。さらに論文及び資料を通じてこの問題が一般国民によってどのように受容され、あるいは反発されてきたかを窺い知ることも可能です。
およそ愛国心について論じられる全ての方々がお考えやお立場はどうあれ、本資料を座右においてご活用下さることを願ってやみません。また思想や教育、政治や社会などの問題を研究される方々はもとより、学校教職員や学生の皆さんにとって本資料が「愛国心」という重要な課題に向い合って戴く一つの機会になればと、私たちは望んでおります。

<推薦します>
「国」というものに真摯に向き合うために 佐伯啓思(京都大学教授)

『資料で読む 戦後日本と愛国心』は、「愛国心」についての論考や政府文書・各種発言などを集めた初の本格的な資料である。戦後60年が過ぎ、ようやくこのような資料集が編集されるようになった。これまで、愛国心について語ることは難しかった。ひとつの理由は、愛国心を過剰なまでに高揚させた戦前・戦中への反省から、逆に、戦後は愛国心に対して戸惑いが生じたからである。愛国心について論じることは、どこか思想的な踏み絵を踏むようなところがあったのである。しかし、それにもかかわらず、「愛国心」は、戦後もずっと日本人の関心の中心にあった。そのことが、この資料集を見ればよくわかる。ここには、戦後日本人の「国家」へ向き合う精神の変遷と葛藤が収められている。愛国派、反愛国派、というイデオロギー的な対立を超えて、国というものにどう向きあえばよいのか。これは、今日も全く変わらぬ課題であり、この課題に対して、本書はもっとも基本的な資料となるであろう。

「愛国心」をめぐる多様な思考と感性のアーカイブ 高橋哲哉(東京大学教授)


戦後日本ほど、「愛国心」をめぐる議論が多様化した時代も地域も、めったになかったのではないか。今では「保守」「右翼」の独占物となった感のある「愛国心」も、戦後初期には、むしろ「革新」「左翼」のスローガンであった。その後、複雑な経緯を経て、ポストモダン思潮が登場した1980年代以降には、「愛国心」とナショナリズムを同一視して全否定する傾向も広まった。しかし現在、政治的には、教育基本法改定を経て、「愛国心」の復権の動きが顕著である。
21世紀のグローバル化の時代に、日本の「愛国心」はどこに行くのか。「日米同盟」と称して米国への従属を深める日本にあって、そもそも「愛国心」は成り立つものなのか。新教育基本法下で始まった「愛国心」教育に、どのように対応すべきか。
こうした問題を考えるためにも、戦後日本の「愛国心」をめぐる議論の歴史を、きちんと踏まえる必要がある。「資料で読む 戦後日本と愛国心」全3巻は、「愛国心」をめぐる多様な思考と感性のアーカイブとして、私たちに多くの刺激を与えてくれるだろう。

原資料に触れる貴重さ 小熊英二(慶応義塾大学教授) 

ナショナリズムを論じた評論や本はたくさんある。しかしナショナリズムは、正体不明、変幻自在なもので、時と場所によってちがい、国や状況によって異なるものだ。たとえば「愛国者」という言葉ひとつとっても、現代日本では右翼を想起するかもしれないが、インドではまず独立運動の志士を意味する。ところが、独立運動を支えたインドのナショナリズムと、ムスリムを排撃するヒンドゥー・ナショナリズムは無縁でなはない。その背景にあるのは、現代インドの急激な経済成長と貧富の格差で、経済成長とグローバリゼーションの波に乗れなかった者をヒンドゥー・ナショナリズムはひきつける。こうした現実の複雑さを無視して、自己のナショナリズム観だけを前提に論じるものが多すぎる。ナショナリズムの複雑さを知り、長所も短所も、魅力も危険も理解するには、それが実際にどのように表れたかの原資料を読むのがいちばんだ。本シリーズの発刊がもつ意味は、ナショナリズムへの理解がもとめられている現代において小さくない。
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